【書評】目に見えているのと違う光景が見え隠れする物語:フィリップ・K・ディック『時は乱れて』(ハヤカワ文庫SF)
目に見えているのと違う光景が見え隠れする物語
フィリップ・K・ディックの初期の長編作品が改訳で復刊。
最初は、1960年頃ののアメリカの一般家庭の何気ない日常が描かれる。珍しい点といえば、主人公レイグル・ガムが「火星人の出現箇所を当てよう」という新聞のクイズ企画に毎日挑戦し続けて収入を得ていること。だが彼も、その日の「仕事」が終われば同居する妹夫婦や若い隣人の夫婦と語らったり、町へ出かけたりする。
だが、その日常には実は秘密がある。物語の核心に関わるので具体的には書けないが、後半はこの秘密を巡る物語が展開する。これは後に小説や映画などで多く使われたテーマであり、また高橋良平氏の解説によると、当時でも同様のテーマの小説やテレビドラマがあり、ディック自身の作品にも同じテーマを扱ったものがあるという。
ということで、読んでいると途中でうすうす感づいてくる。しかしそれでも、現実がゆがむ感じ、目に見えているのと違う光景が見え隠れするのが、ディックらしくて好きです。
そして、最後に主人公レイグルが行う「ある決断」とその理由には、意外性があってよかった。ディックの小説としては、最後のまとまりもいいので(ただ、まとまり切らないのもまたディックの魅力と、私は思っている)、広くおすすめできる小説。
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