「振り返れ!2014」(後編)
(前編より続く)
【音楽編:本と音楽の日々だしね】
■音楽ですが。
●2014年は、やはり伊福部昭生誕100周年だったですよ。
■だったですか。
●伊福部作品を演奏するコンサート、四つ行きましたし、CDも買った。本も買った。昔から『ゴジラ』などの映画音楽だけでなく純音楽の伊福部作品も聴いてきた身としては、その音楽の豊饒さが広く知られたことが嬉しいです。
■他は?
●初音ミク。
■極端だな。
●いや、でも正直な話、日本人が日本語で歌う歌というのは、一部の昔から聴いている人たちを除いて、ますます心に響かなくなっちゃったよ。これは小説も同じで、それは本の話の中でしゃべりますけれど。
■あれ初音ミクってボケじゃないんだ。
●うん。だってほら、ゲームとアニメで育った人間だから、初音ミクは自然に受け入れられるよ。なにしろ俺、かつて機械の体をもらうために電車に乗って旅に出たくらいだからさ。
■ちゃんとしてそうな話が途中から怪しくなってきましたが、一応聞きます。どこまで旅に出たの?
●え? ひ、東中野。
■新宿から中央線で二駅じゃねえか! なんなんだよその中途半端なネタは。
●すみません、話を戻します。
■お願いします。
●初音ミク。
■だから中途半端なところに戻すなよ!
●いやしかし、本当に「クラシック音楽と、ゲーム音楽とボーカロイド」という、我ながらよく分からない音楽の趣味になってきたよ。ちなみに、コンサートでは毎年行っているクラシック音楽祭の「ラ・フォル・ジュルネ」や、声楽のコンサートが印象に残っています。上原正敏さんの解説付きのコンサートや、幸田浩子さんのリサイタルとかね。
【本編:これでも、本はそれなりに読んでいるよ】
■あんまり本のことを書いてないので、あなたが本読みだということが忘れられつつあるようですよ。
●いいよ別に本読みだと思われていなくても、酒飲みくらいで。
■酒飲みじゃねえだろうが。
●じゃあ、湯呑みで。
■それ、人じゃなくて素焼きです。
●今年は、クラシック音楽の本をいくつか読んで、印象的でした。朝比奈隆『音楽と私―ク
ラシック音楽の昨日と明日』(共同ブレーンセンター)、芥川
也寸志『音楽を愛する人に―私の名曲案内』、『私の音楽談義』(いずれもちくま文庫)。あとは別冊文芸『伊福部昭』もそうだな。感想は全部ポッドキャスト
でしゃべったきりで、書評は書いていないけれど。
■最後のは言わない方がいいのでは?
●そういうのは正直ベースでね。
■正直ベース。
●世田谷ベース。
■それは所さんじゃねえかよ。
●あと、仕事に関係しそうな本としては、三冊。ほら、ちゃんと書評書いているよ!
【書評】ここから広がる考え方:堀
公俊『ビジネス・フレームワーク』(日経文庫ビジュアル)
【書評】自分を鼓舞する言葉の強さ:佐藤真海『ラッキーガール』(集英社文庫)
【書評】なにかを始めるときに早すぎることも遅すぎることもない:安藤百福発明記念館『転んでもただでは起きるな!
定本・安藤百福』
■分かりましたから落ち着いてください。
●ハーヴェイ・書いてる。
■くだらねえよ!
●書評は書いていないけれど、西成活裕『シゴトの渋滞学: ラクに効率を上げる時間術』(新潮文庫)も色々考えることのある本でした。
■で、小説は?
●フィリップ・K・ディックの『時は乱れて』と『ヴァリス〔新訳版〕』(どちらもハヤカワ文庫SF)かなあ。小説は、やはりディックが読みたくなる。
■どういうところがいいの?
●混沌としているところ、かな。
■なんでちょっとかっこつけてるの?
●混沌としているところ、かな。
■繰り返すんじゃねえ!
●いや、でもこれは本当で、ちゃんとした筋書きがあったり、すぱっとオチがついたりしなくて、もっとごちゃごちゃして、ごちゃごちゃしたまま終わる物語というのが、なんとなくもやっとした感じでいいのよ。
■ふうん。
●まあ、●田◇▲みたいなしょうもない小説家の作品ばかり読んでいるチミたちには理解できない世界かもしれんがね!
■そういう、敵を増やすような発言は、謹んでクダサーイ。
【書評】目に見えているのと違う光景が見え隠れする物語:フィリップ・K・ディック『時は乱れて』(ハヤカワ文庫SF)
【書評】実はシンプルな物語へ、相当に派手なデコレーションを:フィリップ・K・ディック『ヴァリス〔新訳版〕』
●漫画では、年の初めに小坂俊史さんの初期の作品を随分読んだ。なんだか、自分にとっ
てちょっとしたブームになったんだよね。もちろん新刊も読んでいるけれど。あとはカラスヤサトシさんの著作とか、完結したとよ田みのるさんの『タケヲちゃ
ん物怪録』などが印象的。とよ田みのるさんは新刊が出た際のプレゼントで原画もいただいたりして、あれも嬉しかったなあ。
そして漫画といえば、ベートーヴェンの伝記を漫画化した名作『運命と呼ばないで: ベートーヴェン4コマ劇場』も忘れ難い。NAXOS JAPANが原作を担当しているだけあって、笑いと本気度のバランスが絶妙。
【書評】笑えて泣けて、想像以上の素晴らしさ:NAXOS JAPAN(原作)・IKE(画)『運命と呼ばないで: ベートーヴェン4コマ劇場』
●最後に、原田勝彦『ゲーム・レジスタンス』『同2』(マイクロマガジン・
GAMESIDE
BOOKS)についても話しておきたい。著者はゲーム雑誌の編集やライターとして活躍した方だったが、2008年に交通事故で30歳の若さで亡くなってい
る。この本では、著者の生前の雑誌連載を中心にまとめられている。こうして書いたものが一冊にまとまったことには様々な人の思いを感じるし、読むと文体な
どに人に影響を与えるくらいの魅力があったのだと思う。
■原田さん、我々と同世代だったんですよね。
●そして、自分たちにはなにができるのかってことを考えるわけだよ。なにができるかは分からないけれど、それを考え続けなきゃいけないなと。
■なんか、ちゃんとした話になったな、最後は。
●ということで、2015年も頑張ろうなと。
■ということで、よろしくお願いします
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