【書評】音楽への愛:佐渡 裕『棒を振る人生 指揮者は時間を彫刻する』
音楽への愛
佐渡 裕『棒を振る人生 指揮者は時間を彫刻する』(PHP新書)
著者については改めて説明する必要もないくらい著名な方ですが、ヨーロッパの様々なオーケストラで仕事をする一方、国内でもテレビ番組「題名のない音楽会」や兵庫県立芸術文化センターの芸術監督などを務める指揮者。
佐渡氏の著作はこれまでも二冊刊行されていて、それらはその時点までの半生が中心となる内容だった。今回は、「三〇年間、指揮者を続けてきた今のぼくから見える音楽の風景をつづった、いわば佐渡裕の指揮者論、音楽論」(p.5)として、テーマごとに佐渡氏の考えを綴っている。
読んでいて改めて思うのは、プロとして世界的に活躍する方は、技術や研究はもちろんのこと、その前提として音楽を愛している、それも、とてつもなく愛しているのだということ。例えば、私もクラシック音楽は好きだけれど、この本を読むと、佐渡氏や多くの音楽家の音楽への愛情や情熱は度合いが違うと感じる。だからこそ、そうした音楽に触れた時、私たちは感動するのだと思う。
そして、その情熱は伝播するのだろう。佐渡氏が総監督を勤める「一万人の第九」についての部分を読むと、「中には楽譜を読めない人もいる。いやむしろ、小学校から九〇歳を超える参加者の大半は、ふだんオタマジャクシには縁のない人たち」(pp.152-153)が、最後には合唱を作り上げる。その過程をうかがい知ることができて、佐渡氏の力が参加者に伝わって行くのだと感じる。
そしてそれは、「人が音楽をやる意味は、人が一緒に生きていくことの喜びを確かめるためだ」(p.210)、「『人間は一緒に生きていくことが、本来の姿なんだよ』ということを人間に教えようとして、神様は音楽をつくったのではないか」(p.212)という話にも通ずるのだと思う。
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