【感想】オンライン公開シンポジウム「サブカルと宗教表現―神としての「温泉むすめ」―」
オンライン公開シンポジウム「サブカルと宗教表現―神としての「温泉むすめ」―」
9/25(土)14:00-16:00
主催:大正大学綜合佛教研究所 仏教文化におけるメディア研究会
パネリスト
渡辺賢治(@kenji_bungaku12):常盤短期大学准教授
橋本竜(@ryohsmt):株式会社エンバウンド代表取締役。『温泉むすめ』総合プロデューサー。
佐藤寿昭:『温泉むすめ』原作作家。脚本家
開会の辞
森覚:大正大学 仏教文化におけるメディア研究会
『温泉むすめ』について、メディアやカルチャーの中の宗教という側面から語るオンラインのシンポジウム。
温泉むすめは、日本全国の温泉をモチーフにしたキャラクターによるプロジェクト。このキャラクターが「各温泉地にいる下級の神様」という設定なので、今回のテーマで取り上げられるという経緯なのかな。
温泉むすめについての詳細は公式サイトが一番詳しい。
|温泉むすめプロジェクトとは(2020年10月7日更新) | 温泉むすめ公式サイト: https://onsen-musume.jp/news/3711
取ったメモを全部書いてもまとまりがないので、印象的だったところをまとめます。zoomで公演を聴く形式で、接続が不安定なところもあったので、聴きとれていないところもありましたが。
最初に全般的な感想を書くと、温泉むすめは「長く続けるコンテンツ」、「温泉地、ファンが受け入れられるコンテンツ」を目指しているのだと。
アニメとかゲームには、予算をかけて、一気にブームを作って予算を回収するビジネスモデルもあるけれど、そうではない。最初からマス(大衆)の目を惹きつけるよりも、コンテンツへの思いが強い地元の人や熱心なファンと一緒にコンテンツとして大きくなることを考えているのだということを、改めて実感した。
1.学術的見地からみた温泉むすめの魅力
- ビジネスを先にしない。速さを求めない。「待つ」コンテンツ。継続性。
例:飯坂温泉でのイベントは、第一回はエンバウンドが主催。先日の第二回は飯坂観光協会(地域)が主催し、エンバウンドは協賛。 - 地域のイベントだと、一時的に盛り上がってすたれてしまうものもあるが、そうではなく継続するコンテンツ。学術的には、各地の物語の「語り直し」とか「再構築」。
2.キャラクター設定 温泉むすめと神
- 「温泉むすめ」であり「温泉地むすめ」。温泉だけでなく、そこに人が集まって街ができるのが「温泉」。
温泉は自然に湧き出るもの≒神から与えられたもの。それが温泉街になる。温泉むすめも神様という設定だが、人に大事に受け入れてもらって続いていく。 - 温泉むすめの宗教観は日本人的な宗教観。色々な文化を楽しむ点で、日本的でサブカルチャー的。温泉むすめにを束ねる神様はスクナヒコだが、各温泉むすめが信仰している神様もいる。
等身大パネルを飾ったり、缶バッチをグッズとして販売するのも、仏像やお守りのような考え方。缶バッジは他の温泉地に「奉納」してくれるファンもいる。
各地に温泉神社があるが、すべての温泉にあるわけではないし、あっても温泉むすめがお世話になっているわけではない。箱根のように温泉地を代表する観光地であれば関連がある場所として登場する。宗教性というよりは、それぞれのむすめがどう受け入れて欲しいのかという観点。神主さんも「地元の人」のひとり。 - キャラクターの作成にあたっては、温泉地を代表するキャラクターとするために調べて現地に足を運ぶ。温泉地らしくないキャラクターは受け入れられない。外見には一定のルールがあるけれど、性格は「温泉地の期待を裏切らない」がルール。
キャラクターへのクレームはない。もっと活用してもらうために、名前を変えたり、好きなものを追加したりすることもある。「設定は変えません。でも使ってください」は制作者のエゴ。温泉地で受け入れてもらえないのが一番悲しい。受け入れられて欲しい。50年、100年続けるためになにをするか。
一過性で終わるのか、長く、世代を超えて続くコンテンツになるのか。主催者の視点だけだと、温泉地になにも残らないこともある。運営者、地元、ファンの考えを取り込んで生き残るコンテンツに。 - 小説化、マンガ化は入門編として重要。ただし、必要なタイミングで出版したい。出版社の視点では、商業的に成功しないと「このコンテンツは売れない」という評価になってしまう。コンテンツを続けるためには、あるジャンルでの供給が止まるとインパクトがある。アプリゲームが終わった時に「温泉むすめが終わった」という人もいた。地道に続ける。
- 楽曲は、今はソロ曲を数か月に1曲のペースでリリースする。すべての温泉むすめにソロ曲を持たせてあげたい。楽曲はストーリーを分かりやすく表現できる。例えば下呂美月のキャラソンはいい意味で予想外だったと思う。ステージで輝く様子を表現した曲(岐阜県下呂温泉の温泉むすめ下呂美月には、普段は引っ込み思案でインドア派だが、メガネを外すとアイドルとして覚醒するという設定がある)。
楽曲があると、音楽ゲームを作れる可能性もある。音楽ゲームへコラボレーション楽曲として参加することもできる(例:セガの音楽ゲーム「オンゲキ」とのコラボ)。
3.運営者側からの宗教表現への認識
- 缶バッチの奉納は運営では予想していなかった。缶バッチは元々、現地に行った人だけが買える、各温泉地にある共通のグッズ(通販では購入できない)。御朱印帳や、お遍路、スタンプラリーのような感じ。グッズとしてはお守りに近い。これが温泉地と参加者のコミュニケーションのツールになっているのは予想外。
- キャラクターの設定は俗っぽさやギャップを大切にする。完璧だと愛されない。例えば美人の湯のある磐梯熱海の温泉むすめは美人の湯の名称にコンプレックスを持っている。
神様は万能じゃない方が親しみやすい。温泉むすめも鳥居を渡って移動できる以外は人間と同じ。神格化されない、日常にある存在。街を歩いてみんなから声をかけられるような。
温泉むすめを下級の神様にしたのは、神様としての格が上がると人間に見えなくなるという考えから。代替わりとか神格が上がるのは追加設定。 - アニメ化について。アニメ化するなら継続していくことが必要。シリーズを重ねたり、劇場版を製作したり。ワンクールのテレビシリーズのみで終わると、コンテンツが終わるイメージを持たれてしまう可能性。
温泉地の人にとってプラスになる、応援してもらえる段階で初めてアニメ化したい。慎重に検討。今、121人の温泉むすめがいて、そのうちグッズの販売やパネルの設置が行われているのは80か所くらい。約3分の2。現在キャラクターがいるほぼすべての温泉地で温泉むすめが受け入れられていないと、アニメ化して聖地化することがその温泉地に迷惑になる。
アニメは海外にコンテンツを広げるチャンスではある。インバウンドを考えるとアニメ化はした方がよい。ただ、海外の観光客が来てもらえる状況になってからでないと、海外からの呼び込みを前提とするアニメ化はできない。
4.伝統文化とコンテンツ
- 温泉むすめの地盤も整ってきた。飯坂温泉には50体のパネル。温泉むすめがなくなってもエンバウンドがなくなっても飯坂真尋ちゃんは受け入れられる。いくつかの温泉地でも同じように受け入れられている。それだけ各地で時間をかけて作ってきたものは、すぐにすたれることはないはず。口コミの強さ(信頼性、信憑性)。現地に行くファンの民度の高さ。ファンも資産。
- 「ファンが楽しい」が大事。現地に行くとグッズが買える。300円の缶バッチのために電車や飛行機で行く。時間もお金をかける。それをシェアする。ファンの人が現地に行ったことが楽しくなるように、地元の人が受け入れてもらえたら。
エンバウンドは営業はしない。押し付けない。ファンも過度な押し付けは控えて欲しいが、ファンの「温泉むすめがきっかけで来ました」のひとことやハガキが、温泉地の印象に残ることもある。
温泉むすめは運営、現地、ファンの三位一体。 - 一過性のコンテンツではなく、地域に根付いて継続する。計画していた全国スタンプラリーはコロナの影響もあってクローズしてしまったが、形を変えて行いたい。日本全国にキャラクターがいるのはインフラ。代えの効かない、かけがえのないネットワーク、インフラになるとできるもの。温泉むすめのと。地方が不足しているものを提供したい。課題を解決できるように。集客や経済格差など。それがあって、地域に愛されて継続するコンテンツになる。これまで、全国数十の地域で数百の人と課題を解決してきた経験がある。
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#温泉むすめ #温むす
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